ディミトリ/JAGUAR BEAT ―二本立てでの傑作芝居―

概要


「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」は並木陽先生による「斜陽の国のルスダン」を原作とした作品で、生田大和先生による脚本・演出。13世紀頃のジョージア (グルジア王国) を舞台とした作品で、存続の危機を迎えつつあるジョージアの女王ルスダンとその夫ディミトリを中心とした物語。
「JAGUAR BEAT」は齋藤吉正先生による脚本・演出のショー作品。その名の通りジャガーをモチーフにしたショー作品。

感想のまとめ


ディミトリは全てにおいて非の打ち所がない傑作。主要メンバーが誇る抜群の歌唱力、独特のステップが印象的なジョージアダンス、登場人物の行動原理が丁寧に描かれている脚本といずれも素晴らしかった。終盤でのディミトリ、ジャラルッディーン、ナサウィーの三者三様な掛け合いが特に素晴らしかった。ハマり役揃いだが、礼さんのディミトリ、瀬央さんのジャラルッディーン、天華さんのナサウィー、輝咲さんのチンギス・ハンが特に素晴らしかった。
JAGUAR BEATはスクリーンや電飾を多用したギラギラとしたショー作品。視覚的な派手さと予想できない展開が続く作品で、びっくり箱のように楽しめるか、とっ散らかった作品に感じるかが分かれる作品。

以下ネタバレ注意

【ディミトリ~曙光に散る、紫の花~】

  • 非の打ち所がない傑作
    脚本、演技、歌、ダンスの全てにおいて死角のない傑作。主要メンバーが誇る抜群の歌唱力、独特のステップが印象的なジョージアダンス、登場人物の行動原理が丁寧に描かれている脚本といずれも素晴らしかった。

  • 丁寧な演出で紡がれる王道のストーリー
    王道のストーリーが丁寧な演出で展開されていく。行動原理がはっきりと描写されているからこそ、避けようのない運命へ進んでいくディミトリたちの生き様に心を打たれる作品。原作も素晴らしいのだろうが、ここまでシンプルかつ完成度の高い作品を作り上げた生田先生の手腕が光っていた。

  • 悪人不在のストーリー
    強いて言えばアヴァクが憎まれ役だが、基本的には悪人がいない。それぞれが最善を目指して進んでいくストーリーの中で、ディミトリとルスダンを中心としながらも多くの人物に見せ場がある点も好みだった。

  • 完成度が高いがゆえにしんどい作品
    圧倒的な完成度でifを感じさせない分、見るのに体力を要する作品かもしれない。中盤以降は少しずつ歯車が狂っていき、すれ違いが悲劇につながっていく。ディミドリの最期の決意も重く、それを受ける面々も悪役が居ないからこそ辛いものがある。元気をもらう作品というよりも、元気のあるときに感動するために見る作品だった。

  • 印象に残るホラズム陣営
    ホラズム陣営は出番こそ中盤以降だが、芝居上手の瀬央さんと天華さんが強烈な印象を残していく。トビリシ陥落を報せを受けたホラズムのシーンが特に印象的だった。淡々と服毒の準備を進めるディミトリ、動じずにまず意見を聞こうとするジャラルッティーン、かつての疑念が確信に変わりつつあるナサウィーの様子はまさに三者三様。そこからディミトリが服毒したことで彼の決意を知り、ディミトリを王配として看取るジャラルッティーンのシーンが感動的だった。

  • 適材適所の配役
    主演のディミトリ、ルスダンをはじめとして配役もまさに適材適所。勇ましさと器の大きさを併せ持つ瀬央さんのジャラルッディーン、会話の中でディミトリとの関係性が伝わってくる天華さんのナサウィー、あくまで善意でルスダンの悲しみを癒そうとした純朴な極美さんのミへイル、抜群の貫禄を誇る輝咲さんのチンギス・ハンなどはまさにハマり役。

  • 充実した歌唱シーン
    歌の上手なメンバーが多く、歌唱シーンが素晴らしかった。力強く綺麗なハーモニーで、印象に残りやすい楽曲揃いな点も良かった。礼さんや瀬央さん、綺城さん、天華さん、有沙さんに加えて組替えで加入した暁さんと主要メンバーがこぞって歌唱力に秀でているのが特長。

  • 貫禄ある髭が素晴らしい
    思っていた以上に髭の似合うメンバーが多かった。特に瀬央さんと暁さんのヒゲが似合っていて素晴らしかった。髭を貯えた貫禄ある男役が世界観の深みを増していて、ビジュアル的にも満足度の高い公演だった。

  • 幻想的なリラの花
    冒頭の物乞いとリラの花のシーンが幻想的で印象的。華やかな紫色と高音が綺麗に響く歌唱によって、過去のジョージアへ舞台が移っていくシーンがとても美しかった。

【JAGUAR BEAT】

  • かなり癖の強いド派手なショー
    ド派手だが、非常に癖の強いショーだった。多用されるスクリーン映像や電飾を、同じくギラギラした派手な衣装、散らかったストーリーとかなり人を選ぶ内容。特にスクリーンは最後にも使ってくる徹底ぶり。予想外の展開が続く派手なショーととらえるか、散らかったショーととらえるかで印象は大きく異なるだろう。個人的には前者だった。

【個別】

  • ディミトリ (礼さん)
    公と私との間で悩み苦しむ様が本当に似合っていて素敵だった。トビリシ陥落を受けたシーンで、淡々と服毒の準備をする姿が印象的。初めからこうするつもりだったからこその迷いのなさで、ディミトリという男の生き様が現れていて悲しくも潔いシーンだった。歌も非常に素晴らしく、時に優しく、時に力強く歌い分けていてどちらも素晴らしかった。綺麗に伸びるロングトーンも印象的で、劇場に響き渡る歌声が本当に素敵だった。

  • ルスダン (舞空さん)
    過酷な運命に立ち向かう女王の強さや悲哀の見せ方が素敵だった。中盤以降は表情がどんどん硬くなり、ディミトリの死を察したシーンでの悲痛な叫びが特に印象的。

  • ジャラルッディーン (瀬央さん)
    髭を貯えた貫禄ある立ち姿、力強くよく響く歌声、大きな器を感じさせる視線と本当に素晴らしい役作りだった。トビリシ陥落の報せを受けたシーンが特に印象的。トビリシが陥落しても態度を崩さずにディミトリに問いかけていたジャラルッティーンが、ディミトリの真意を知って優しく看取るシーンが素晴らしかった。毒の影響で体制を崩したディミトリを抱え直すシーンは噂によるとアドリブらしいが、とても自然だったのでBlu-rayで見比べたい。

  • アヴァク (暁さん)
    先王への忠義からディミドリへ嫌疑を向けているので憎悪が強烈だが、それが終盤に効いていて素敵だった。トビリシ奪還の派兵を命じられて、ルスダンに確認を取るシーンにアヴァクの人間性を感じられて印象的だった。情報を疑うよりも、ディミトリを思わず気にかけている表情や声色が印象的で、アヴァクがディミトリの印象を改めていることが伝わってくる良いシーンだった。

  • 物乞い (美稀さん)
    不気味な佇まいが印象的で、物語に影を落とすような役割が印象的だった。

  • チンギス・ハン (輝咲さん)
    物語を通じてのラスボスかと思うような凄まじい貫禄が素晴らしかった。圧倒的な武力を誇るモンゴルのチンギス・ハンに相応しい圧倒的な存在感で、出番の少なさが勿体ないぐらいだった。

  • ギオルギ (綺城さん)
    優しい王としての姿が印象的で、強さとルスダンたちへ向ける優しい視線が素敵だった。歌も素晴らしく、有沙さんとのデュエットが壮大で印象的だった。組替え前最後の公演だが、それに相応しい素晴らしさだった。

  • バテシバ (有沙さん)
    凛としたタイプの女性で、ルスダンへ向けた、力強く圧すら感じさせるような歌が印象的。

  • ナサウィー (天華さん)
    公演ごとに役柄が大きく変わるが、この役もとても器用に演じていて素晴らしかった。ジャラルッティーンの腹心としてディミトリを疑いつつも、話していく中でディミトリを信用して密告を見逃すシーンが特に素晴らしい。ディミトリがジャラルッティーンたちの信用を勝ち得た誠実さや、ナサウィーも腹心として忠実に働いている様子が見えてきる名シーンだった。

  • ミヘイル (極美さん)
    誠実な美青年が本当によく似合う人で、出番以上に印象的。王妃を想う純朴さが見ていて辛いほどで、王妃との不倫が生々しく見えないのは極美さんの演じ方があってこそだろう。