ロミオとジュリエット (星組2021年版) 感想
―「死」の存在感が強烈な役替わりB―


概要

原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演で、宝塚では星組→雪組→星組→今回の星組と4回目の公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。

感想のまとめ


礼さん・舞空さん体制の代表作になるであろう傑作。青春を謳歌するロミオたちと苦悩するティボルト、目まぐるしく表情を変えながら恋に生きていくジュリエットたちが見せる若さと悲劇がとても感動的。歌の上手なメンバーが多く揃っているので歌唱シーンも素晴らしく、特に礼さんの圧倒的な歌唱力で声色を変えながら歌う様が凄まじい。愛月さんが演じる「死」の圧倒的な存在感と冷たさも凄まじく、二番手が「死」を演じることの意義と素晴らしさを実感できる役替わりだった。

以下ネタバレ注意

感想


原作を何回も読んでいる視点での感想。ミュージカル版に伴う変更点などは ロミオとジュリエット (2010年星組) 感想 に記載しているので割愛。

今回は役替わりBを視聴。

【全般】

  • 青春と悲劇性が際立った傑作ぶり
    今まで観た中で一番青春を謳歌しているロミオとジュリエットで、それ故に悲劇ぶりが際立っている。はまり役が多く、歌の上手なメンバーが多く揃っているので歌唱シーンも素晴らしい。礼さん・舞空さん体制の代表作になるであろう素晴らしい作品だった。
  • 今までで一番荒れているヴェローナ
    観てきた中でこのヴェローナが一番荒れている。死の存在感に当てられたかのように、両家の憎しみは最初から最高潮。冒頭から大公が必死に止めているが、無血で終わることはありえないと思わせる緊張感。

  • 青春を謳歌するモンタギュー家
    礼さんのロミオは幼くてカリスマよりも愛嬌あふれるタイプ。弟を見守るようにロミオに接する綺城さんのベンヴォーリオ、キャピュレットが絡まなければ比較的落ち着いた天華さんのマキューシオの三人が青春を謳歌している。モンタギュー家がこれだけ前途洋々だからこそ、後半でそれが失われていく悲壮感も強烈。

  • 苦悩するティボルトと衰退していくキャピュレット家
    一方キャピュレット家はかなり悲惨。当主夫婦の仲は冷え切っていて、キャピュレット卿は始終イライラしている。さらに借金だらけと来れば、跡継ぎのティボルトが悩むのも当然かも知れないが、ここまで真面目で苦悩しているティボルトは新鮮。後にジュリエットがロミオと結婚したと知って豹変するが、真面目な人が苦悩の果てにキレた恐ろしさがある。

  • 表情の変化が目まぐるしいジュリエット
    舞空さんのジュリエットはとにかく表情が目まぐるしく変わる。特にロミオと出会ってからはコロコロと表情が変わり、恋に生きているのが表情に出ていて可愛い。

  • 強烈な死
    B日程で話題になっていた二番手・愛月さんの死は凄まじい存在感。登場するだけで惹きつけられ、キレッキレのダンスと冷たい表情で場を支配する。第二幕で見せる冷たい色気もゾッとするほど素敵で、冷たい死として最高の演技。一路さんのトートを思わせる冷たく絶対的な存在を思わせる死で、演技力抜群な二番手が死を演じることの素晴らしさを実感した。

  • 息子に接するようなロレンス神父
    ロミオが幼いので、英真さんのロレンス神父も息子に接するような態度。ロミオの青さに当てられたかのように青写真を描くロレンス神父は、ロミオの影響力の大きさを感じさせつつ終盤の絶望をも深くする素敵な役。

  • アレンジされた楽曲は相性バッチリ
    いつからこのバージョンかはわからないが、楽曲がかなりアレンジされている。特に礼さんの歌い方と相性バッチリ。

  • デュエットダンスが凄い
    礼さんと舞空さんといえばダンス、デュエットダンスでは速くてキレの良いデュエットダンスを楽しめる。本編でのゆったりとしたダンスも素敵だが、二人らしい高速でも息の合ったデュエットダンスも素敵。

【個別】

  • ロミオ (礼さん)
    幼いタイプのロミオがとても似合っていた。カリスマで周りを統率するタイプではなく、愛嬌で人を繋いでいくロミオで、可愛さと青さのバランスが絶妙。青春を謳歌しているタイプで、ジュリエットとの恋にすべてを投じてしまうのも納得のロミオだった。
    歌とダンスは上手いを通り越して凄まじい領域。とても綺麗に響く歌声に加えて、声の演じ分けも見事。ジュリエットのことを歌う甘い声、不安に怯える震えた声、仮死状態のジュリエットを見たときのすべてを悟ってしまった声と歌声がガラッと変わる素晴らしさ。ダンスのキレも抜群で、歌って踊って演じてのすべてが超ハイレベル。礼真琴さんの代表作に挙げられるであろう素晴らしいロミオだった。

  • ジュリエット (舞空さん)
    表情がコロコロと変わってとても可愛いジュリエット。コロコロ変わる表情が幼さを、ふと見せる真顔からは皮肉も言いそうな知性を思わせる素敵な演じ分けだった。ロミオと出会って恋に夢中になっていく様がまさにジュリエットではまり役。歌も安定していて、ダンスはとても綺麗なので、バランス良く素敵なジュリエット。

  • ロレンス神父 (英真さん)
    優しくて頼れる神父様で、今回は子を愛するかのような優しさが印象的。ヴェローナでも人気の神父様だろうと思わせる温かい人柄が素敵だった。幼いロミオたちの若さに当てられてすべてがうまくいく青写真を描き、その結末に絶望する。悲劇の一因だけれども最大の被害者にも思えるような悲劇ぶり。

  • 死 (愛月さん)
    圧倒的な存在感!出てくるだけで目を引かれ、キレッキレのダンスと冷たい表情で視線を釘付けにしてくる。劇場で見たら間違いなくオペラグラスを固定したくなるような存在感で、存在するだけで周囲の生命を奪っていくような無機質な死。第二幕では恐ろしいほどの冷たい色気で、一路さんのトートみたいな冷たさと生との隔絶を感じさせる最高の死だった。
    二番手なのにセリフのない役なのかという気持ちもあったが、それを払拭してお釣りの来るような最高の役に思えた。

  • ティボルト (瀬央さん)
    すごく真面目なティボルトだった。キャピュレット家を継ぐものとして色々考えて、その先行きの暗さに苦悩しているタイプに思えた。継ぐ家は借金だらけ、宿敵は前途洋々、愛しいジュリエットの婚約者はよりにもよってパリス伯爵。そんな絶望的な状況でも何とかしようとしてきたのに、ジュリエットがロミオと結婚。キレてしまうのも納得だが、キレたときの豹変ぶりがとても怖くて素敵だった。歌も上手で聞き心地が良く、演技に歌にダンスに死角なしの万能ぶりだった。

  • ベンヴォーリオ (綺城さん)
    ロミオを守る兄貴分のようなベンヴォーリオで好きなタイプだった。ロミオをマーキューシオから守り、ティボルトからも守り、ジュリエットの死を苦悩しつつも確固たる信念で伝えに行く。そんな自立したタイプのベンヴォーリオで素敵だった。
    歌も上手で、凄まじい!というタイプではないけれど本当に聴きやすい。頼りになるベンヴォーリオ像と合った心地よさで、とても素敵なベンヴォーリオだった。

  • マーキューシオ (天華さん)
    両家の憎しみと罪を体現するかのような、狂気に満ちたマーキューシオだった。キャピュレットが絡まなければ普通なのに、キャピュレットが絡むと豹変するさまはまさに狂犬で、ティボルトに向ける憎悪と殺意は特に凄まじい。死ぬ間際にはそんな狂気から解放されるので、両家の罪深さを思わず感じてしまった。恐ろしいけれど素敵なマーキューシオだった。

  • キャピュレット卿 (天寿さん)
    常にイライラしている態度が好き。借金だらけ、冷え切った妻との関係、宿敵のモンタギュー家は前途洋々。すべてがストレス源の状態でそれを態度に出してしまうあたりに、うまく行かなさが現れていて素敵だった。

  • キャピュレット夫人 (夢妃さん)
    夫とは冷え切った仲で、愛してないを通り越して嫌いなんじゃないかというような態度がとても印象的。ティボルトには全然違った表情を見せるので、キャピュレット家でもバレているだろうなと思うし、キャピュレット家の重々しさを演出していて好きだった。

  • ヴェローナ大公 (遥斗さん)
    歌うときの威厳ある姿が素敵だが、過去一番で大変そうな大公だった。必死に止めてやっと一触即発という状況で威厳を持って、辛うじて踏ん張っている大公だった。

  • パリス伯爵 (極美さん)
    第一印象で気取り屋の間抜けを完璧に体現する役作りが凄い。完璧なビジュアルなはずなのにそう思わせる絶妙な仕草が素敵で、観るたびに癖のある役を完璧に合わせてくれるので次も楽しみ。

  • 乳母 (有沙さん)
    本当に上手な人だと感心する乳母。コミカルからシリアス、泣かせる演技もお手の物で、歌も力強さと優しさが出ていてとても良い。教会での結婚式に向かうジュリエットの後ろで泣いている表情がとても素敵。