概要
原作は誰もが知っているシェイクスピアの恋愛悲劇。ジェラール・プレスギュルヴィックによるミュージカル作品を、小池修一郎先生が潤色・演出した公演で、宝塚では星組→雪組→星組→今回の星組と4回目の公演。
14世紀のイタリア・ヴェローナを舞台に、対立している家柄のモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットが恋に落ちるが、運命の悪戯によって悲劇となってしまう物語。原作から変更点もいくつかある公演。
感想のまとめ
若さと青春、そして愛にフォーカスされた王道を征く正統派の超大作。愛月さんのティボルトによって、若さの生み出すエネルギーと悲劇性が強調されている。ウェストサイド物語の雰囲気を少し逆輸入したようなイメージが近いかもしれない。
完成度の高い役作りも特長で、ティボルトを等身大の青年として演じた愛月さん、マーキューシオをやんちゃで直情型な幼馴染として演じた極美さんが秀逸。特にマーキューシオは、その人物像がすとんと腑に落ちる絶妙な役作りだった。そんな中で異彩を放つ天華さんによる死の大胆な役作りも光っていて強烈だった。
役替わりBの感想は別記事に記載。
以下ネタバレ注意
感想
原作を何回も読んでいる視点での感想。
ミュージカル版に伴う変更点などは ロミオとジュリエット (2010年星組) 感想 に記載。
役替わりBの感想は別記事に記載。今回は役替わりAの内容をピックアップ。
【全般】
- 王道を征く正統派
役替わりAは正統派の王道ど真ん中で若さと青春、そして愛にフォーカスされている。役作りもかなり正攻法という印象で、真っ向勝負で作り上げられた大作を楽しめる。
原作的には ロミオとジュリエット (2010年星組) の方が雰囲気的に近いが、ロミオとジュリエットと聞いたときのイメージにピッタリと合致して、しかも王道的な要素にフォーカスされているのが独特の王道感を生み出している。
役替わりBは青春と悲劇性、そして狂気にフォーカスが当てられていた変化球だったので、A/Bで異なる雰囲気を楽しむことができた。 - ティボルトによって強調された若さが生み出すエネルギーと悲劇性
役替わりAでは愛月さんのティボルトによって、若さの生み出すエネルギーと悲劇性が強調されている。ウェストサイド物語の雰囲気を少し逆輸入したようなイメージになっている。鬱積した若さゆえのエネルギーは両家の対立に現れていたが、溜まったエネルギーは最後に爆発してしまい、マーキューシオとティボルトの死につながっていく。狂気よりも若さゆえの激しさと悲劇性が際立った雰囲気になっている。
青春を謳歌する幼馴染感に溢れたモンタギュー側に対して、ジュリエットへの重い愛と立場による鬱積されたエネルギーを抱えるティボルト。代々に渡る両家の遺恨に若さが拍車をかける構造になっている。 - 衣装の色分けが弱くなった
初演では衣装の色で陣営がわかる親切設計だったが、今回はそれが弱くなっていて、ロミオやベンヴォーリオの衣装に青みが強いままだった。彼らの心境が反映された演出が好きだったのでそこだけは少し残念。 - 歌唱シーンの迫力が凄まじい
改めて思ったが、歌唱シーンが素晴らしいを通り越して凄まじい。特に礼さんと英真さんの歌が凄まじく、歌で物語をグイグイと引っ張っていく力強さを感じた。
【個別】
役替わりAで変更された人のみをピックアップ
- ティボルト (愛月さん)
愛月さんがティボルトと聞いた時はどれだけ憎らしく演じるのだろうと思ったが、等身大の青年の演じ方がとても素敵だった。鬱積されたストレスをマーキューシオたちとの喧嘩で発散して、理想化したジュリエットを見ているような純粋かつ重い愛を歌う。まるで大人になりきれない青年で、ジュリエットへの想いを歌うときの澄んだ目と優しい声がとても素敵。
狂気が弱いからこその恐ろしさもあって、決闘のシーンは愛月さんの真骨頂。マーキューシオを的確に煽り続け、止めに入ったロミオの腕の下からマーキューシオをしっかりと狙って一突き。その後の喜びようも相まって、鬱積されたものが最悪の形で爆発してしまった恐ろしさを感じた。
どこかウェストサイド物語を思わせるような若さと熱量を感じさせるティボルトで、さすが愛月さんというティボルトだった。後で知ったが愛月さんはウェストサイド物語でベルナルド役の経験があるらしく、引き出しの巧みな使い方に感動した。 - ベンヴォーリオ (瀬央さん)
器の大きいベンヴォーリオで、年上感はないが頼りになる幼馴染感がとても強かった。役替わりBでも悩めるティボルトがとても似合っていたが、悩める青年がとても上手。悩みながらも最後は答えを出してロミオにジュリエットの死を伝えに行く、そんな信念を感じさせる歌い方と表情の変化がとても素敵だった。 - マーキューシオ (極美さん)
すべての言動がすっと腑に落ちるタイプで、今までで一番好きなマーキューシオかもしれない。やんちゃで直情型な幼馴染という役作りが完璧に思えた。普段はムードメーカーでティボルトとはよく対立するのも自然で、ロミオが何も言わずにジュリエットと結婚したら激昂するし、決闘のシーンでは挑発に乗って命を落としてしまうのも道理至極だった。このマーキューシオなら最期にロミオを応援するし、両家を呪うのも当然だな、と思えた初めてのマーキューシオで、初めて彼の人物像を掴めた気がする。奇抜な髪型でも際立つ格好良さも素敵だった。 - パリス (綺城さん)
顔が良くて声も素敵で歌も良い、けれど「とても」残念なパリスぶりが絶妙だった。キャピュレット卿は考え直したほうが良いのでは?と思わせる残念ぶりで、妙に自信満々だが金や権力でなんとかしてきたんだろうと思わせる情けなさとナルシストぶりがとても上手。 - 死 (天華さん)
役替わりBの狂気に満ちたマーキューシオが印象的だったが、役替わりAでは目的のはっきりした死だった。人の織りなす物語には全く興味がなく、下ごしらえをしながら魂を美味しく食す準備をしているような、冷酷な死だった。
役替わりA/Bともにかなり攻めた役作りで唯一無二の人物像になっていて、とても上手な人だと思った。 - 大公 (輝咲さん)
ヴェローナが比較的平和だからか、かなり人間味のある大公だった。マーキューシオたちの亡骸を見ても怒りよりも嘆きに近い感情で、キャピュレット夫人とモンタギュー夫人が手を取り合う姿を見つめる表情がとても印象的。