ロミオとジュリエット (星組2021年版) 役替わり比較
―ガラッと変わる役替わり―

概要


礼真琴さん・舞空瞳さん体制の星組で随所で絶賛されている「ロミオとジュリエット」。役替わりで雰囲気がガラッと変わっているので、見比べると二度も三度も楽しめる作品になっている。
今回珍しく両パターンのブルーレイが発売されるので、両パターンの違いをピックアップしてみる。
個別の感想は下記を参照。
ロミオとジュリエット (役替わりA) 感想
ロミオとジュリエット (役替わりB) 感想

まとめ


王道を行く青春物が好きならば役替わりA、変化球が好みならば役替わりBが刺さりやすい印象。「マーキューシオ」と「死」の二役が雰囲気におけるキーキャラクター。「ティボルト」や「パリス」の人間味の違いや「ジュリエット」の変わらなさなど、変わるところも変わらないところも面白さにつながっている。
ティボルト/死で人と概念の演じ分けが凄まじい愛月さん、マーキューシオ/パリスで言動すべてが腑に落ちる極美さん、死/マーキューシオをかなり攻めたアプローチで演じた天華さんが個人的なお気にいり。

 

以下ネタバレ注意

 

比較


  • テーマ
    押し出されているテーマの違いが、両者の雰囲気を隔てていた。王道を行く青春物が好きならば役替わりA、変化球が好みならば役替わりBが刺さりやすい印象。
    役替わりAは「若さ」、「青春」、そして「愛」。まっすぐさ故に悲劇へ向かっていく。役替わりメンバーは表情などの演技がとても巧みな印象。
    役替わりBは「若さ」、「青春」、そして「狂気」。狂気が伝染して悲劇へ向かっていく。役替わりメンバーは歌唱力がとても高い印象。
    余談だが役替わりAは青春物としては王道だが、原作と比べると雰囲気が結構違うところも面白さになっている。

  • ヴェローナの治安
    冒頭から強烈なインパクトを放っているのがヴェローナの治安。落差を楽しむならば役替わりA、緊張感を楽しむならば役替わりBだろう。
    役替わりAは不良少年の諍いでといった印象で、引き際をわきまえていて比較的平和。
    一方役替わりBは冒頭から一触即発どころか爆発中で、血を見ずには済まない荒々しさ。

  • モンタギュー家とキャピュレット家
    両家の雰囲気も大きく異なる。
    役替わりAではキャピュレット家が莫大な借金を抱えているものの、対等な勢力図。
    役替わりBでは前途洋々なモンタギュー家と衰退の近いキャピュレットで、モンタギュー卿の苛立ちと跡取りのティボルトの苦悩が目立つ。

  • モンタギュー家の3人組
    今回はカリスマ性の強いロミオとそのお友達というイメージから変化させている。
    役替わりAでは仲良しな幼馴染3人で、絆がとても強い印象。表情や言動から真っ直ぐな感情が伝わってくる、演技力重視の3人組。
    役替わりBでは末っ子ロミオと兄貴分。かなり変化球の関係性になっている。こちらは歌唱力が凄まじい。3人そろって歌が上手で、「世界の王」のシーンがとても素敵だった。

  • マーキューシオ (極美さん/天華さん)
    役替わりにおける影響力の大きいキーキャラクターの一人。かなり異なるキャラクターでどちらも強烈かつ素敵な役作りなので、ぜひ見比べてほしい。
    役替わりAでは直情型の友人で、やんちゃさと根っこの善良さが目立つ。一見矛盾する要素を抱えた、彼の行動が全て腑に落ちるという極美さんの役作りの素晴らしさの詰まったマーキューシオだった。ロミオが「黙って」キャピュレットの娘と結婚したことに怒ったタイプで、もう少し時間があれば和解できただろう。
    役替わりBでは冒頭から狂気に飲まれている。キャピュレットが絡むと豹変するさまはまさに狂犬で、作中屈指の危険人物。最期にロミオを応援したのは、狂気から解放されたからだろう、と思わせるマーキューシオだった。ロミオが黙って「キャピュレットの娘」と結婚したことに怒るタイプで、ロミオをも刺しかねないので和解は難しかっただろう。歌がとても上手なのも印象的。

  • 死 (天華さん/愛月さん)
    役替わりにおけるもうひとりのキーキャラクター。役替わりAは死をモチーフにしたキャラクターであくまで登場人物、役替わりBは死そのもので概念といった印象。役替わりBはエリザベート初演版のトートに近いものがある。
    役替わりAではロミオの魂に狙いを定めている。美味しく食べるための下ごしらえをしつつも狙いはあくまでロミオというタイプ。
    役替わりBでは特定の狙いはなく、冷たく無機質な死。生物とは隔絶された距離感があり、存在するだけで周囲の命を奪っていくタイプ。無機質さ故の冷たさと色気が凄まじい。
    余談だが、「マーキューシオ」と「死」という2つのキーキャラクターを、攻めたアプローチでアプローチで演じている天華さんの演技力は凄まじかった。

  • ティボルト (愛月さん/瀬央さん)
    原作では気障で舞台装置的な彼だが、今回は人間味の強い役だった。役替わりAでは時代と若さに翻弄されたウェストサイド物語的で、役替わりBでは環境が悪かったというティボルトだった。
    役替わりAでは大人になりきれない若者で、ジュリエットへの純粋な愛が目立つ。狂気が弱い分理性的で、割って入ったロミオの腕の下からマーキューシオをしっかりと狙った狡猾さが印象的。
    役替わりBでは大人にならざるを得なかった真面目な若者で、キャピュレット家を立て直すためのすべてが苦悩の種。こちらは理性的だった前半からのギャップが強烈。溜まりに溜まったストレスがジュリエットとロミオの結婚によって爆発し、狂気に身を委ねていく。
    余談だが愛月さんはウェストサイド物語でベルナルド役を演じているので、意図的に寄せているのだろう。「ティボルト」を演じるときは人間味を、「死」を演じるときは概念感を強くするという、素晴らしい演技だった。

  • ベンヴォーリオ (瀬央さん/綺城さん)
    役替わりAでは器の大きい友人。危なそうならロミオをかばい、悩んだ末にジュリエットの死をロミオに伝えに行く姿は、彼の誠実さと強い信念を感じさせる。歌いながら悩み、そしてロミオに伝えに行く決心をするまでの表情の変化がとても素敵だった。
    役替わりBでは過保護な兄貴分。とにかくロミオをすぐかばうのが印象的で、ロミオをかわいがっている印象。ヴェローナが荒れていることもあり、慎重なタイプになっている。歌がとても上手なのも印象的で、どの曲のどのパートをとっても安定して上手。

  • 大公 (輝咲さん/遥斗さん)
    ヴェローナの雰囲気に引っ張られる形で、印象が変わっていた。
    役替わりAでは元気で威厳に満ちていたが、マーキューシオたちの亡骸を見た際に、怒りよりも嘆きを全面に出した姿が印象的。
    役替わりBでは冒頭から威圧感がとても強い。両家を全力で止めるためなのだろうが、それでも止められないところにヴェローナの狂気を強く感じさせる役柄だった。

  • パリス (綺城さん/極美さん)
    実は原作では立派な青年で好きなキャラ。宝塚版 (ミュージカル版からか?) は気取り屋の間抜けになっている。気取り屋の間抜けにも、色々なタイプがあるのだと実感した。
    役替わりAではかなりのナルシストで、金と地位でなんとかしてきたタイプ。「とても」残念なタイプで、ジュリエットが避けるのも悲しいが納得の男ぶり。ビジュアルと声の格好良さを吹き飛ばすような振る舞い方と、時折出す情けない悲鳴が良いアクセント。
    役替わりBでは愛されて育ったタイプのおバカで、どこか憎めないタイプ。彼ぐらい無害そうならば婚約者に選ばれたのも納得で、諍いのない平和な家とならうまくやっていけそうな印象だった。極美さんの納得させる役作りが光る役柄。

  • ロミオ (礼さん)
    モンタギュー家のメンバーが役替わりする関係で、3人組でのポジションが変わる。
    役替わりAでは幼馴染3人組の印象で、対等な良い悪友。ジュリエットとの結婚もじっくりと時間を書けて話せば説得できたのでは?と思うような関係性。
    役替わりBでは末っ子感が強くなり、愛嬌の良さが目立つ。逆にこちらはジュリエットとの結婚を理解してもらえなそうで、ベンヴォーリオはロミオを心配して、マーキューシオはキャピュレット相手なので反対し続けただろうという印象。決闘のシーンがなければ和解は難しかっただろう。

  • ジュリエット (舞空さん)
    ジュリエットはかなり異質で、役替わりでほとんど変化していない印象だった。おそらく狙ったとおりなのだろう。ヴェローナの雰囲気がどれだけ変わろうが、彼女の世界を変えるのはロミオだけなのだろう。そう考えると彼女にとってのロミオの大きさが伝わってくるし、ティボルトの哀愁がより強くなった。